Three Farm 代表 / 醸造家
樋上 亮
LIGHT FACTORY オーナー / ソムリエ
1. 世界を巡った18年 —— なぜ「未完成の地・津軽」なのか
藤井さん、本日はよろしくお願いします。藤井さんはこれまで18年にわたってワイン造りに携わり、国内の山梨、長野、北海道だけでなく、フランス、ドイツ、NZ、豪州、チリ、南アフリカと、世界中の名立たる産地でブドウ栽培と醸造を経験されてきましたよね。それだけのキャリアをお持ちの藤井さんが、最終的に『青森・津軽』という地を選ばれた理由から、ぜひお伺いさせてください。
よろしくお願いします。世界各地の土地を見てきて感じたのは、『良いワインは醸造技術だけでつくられるのではなく、その土地の気候や土壌、そこで育つブドウがあって初めて生まれる』ということでした。
青森の津軽に来たとき、冷涼な気候の中でブドウがゆっくりと成熟していく面白さに強く惹かれたんです。特に白ワインやスパークリングに必要な美しい『酸』を残しながら、香りをじっくり成熟させられるポテンシャルを感じました。さまざまな産地を巡ってきたからこそ、まだワイン産地として完成されていない津軽で、自分たちの手でこの土地らしいワインをつくっていきたいと思ったのが決め手ですね。
『酸』と『香り』のバランスですね。僕も店舗でお客様に接する中で、単に甘い/辛い・軽い/濃いだけではない、キレイな酸と透明感のあるワインがいかに人を魅了するかを実感しています。雪国である津軽でのブドウ栽培は苦労も多いと思うのですが、気候面での面白さはどう捉えていますか?
津軽は冬の積雪が多く、春から夏も比較的冷涼で、収穫期に向けて大きな昼夜の寒暖差が生まれます。ブドウは成熟すると糖度が上がり酸が抜けていきますが、冷涼だからこそフレッシュな酸がしっかり残る。単純に高糖度を目指すのではなく、果実のフレッシュさと香りのバランスを大切にしたい僕にとっては最高の環境です。雪国の厳しい環境を生き抜いたブドウだからこそ、繊細で透明感のある津軽らしいワインが生まれるのだと思っています。
2. 「自然が想像を超えてくる」—— 醸造哲学と壁
造り手としてのこだわりについても深掘りさせてください。藤井さんがワイン造りで最も大切にされていることは何でしょうか?
一言で言えば、『ブドウが持っているものを、できるだけ素直にワインにすること』ですね。華やかな香りを人工的に作るのではなく、その品種や畑が本来持つ魅力をどう引き出すか。酵母の選択も『この酵母を使えばこの香りが出る』という安易な決め打ちではなく、その年のブドウの状態を見て判断します。
ワインをつくるというより、『ブドウが持っている良さをどこまで邪魔せずにワインにできるか』という感覚に近いです。最終的には、香りだけが主張するのではなく、酸がきれいで飲み疲れず、食事と一緒に『もう一杯飲みたくなるワイン』を目指しています。
『ブドウの良さを邪魔しない』……削ぎ落とされた美学ですね。毎年変わる自然環境の中で、特に壁を感じる部分や、逆に『やっていて良かった』と実感する瞬間はどんな時ですか?
津軽でのワイン造りは僕自身もまだ学びの途中で、『去年うまくいったから今年と同じでいい』が一切通用しません。そこが難しさでもあり壁ですね。
でも、一年間畑で手塩にかけたブドウがワインになって、グラスに注がれた時、自分が想像していた以上の素晴らしい香りや味わいが現れる瞬間があるんです。自然が自分の想像を軽々と超えてくる。あの瞬間があるから、ワイン造りはやめられないのだと思います。
3. スチューベンと国際品種 —— 津軽だからこそできる表現
Three Farmの取り組みで特に象徴的なのが、津軽で長く愛されてきた『スチューベン』というブドウへのアプローチだと思います。この品種の魅力と、どう向き合っていらっしゃいますか?
スチューベンは本当に『青森らしい』ブドウです。一般的には甘さが強い印象を持たれがちですが、ワインにするとベリー系の華やかな香りと独特の個性を発揮してくれます。ただ、甘さや香りをそのまま出すと重たくなってしまう。だからこそ僕たちは、スチューベンらしい果実味を残しつつ、キレイな酸と軽やかさをどう表現するかを徹底的に意識しています。
海外の有名品種をただ真似るのではなく、昔から津軽にあるスチューベンだからこそできるワインをつくる。それこそが、この土地でワイナリーをやっている存在意義だと思っています。
自国の、その土地ならではの品種に向き合う姿勢、本当に素晴らしいです!一方で、シャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ゲヴュルツトラミネールといった国際品種の栽培・醸造にも取り組まれていますよね。こちらへの手応えはいかがですか?
国際品種は世界中で造られているからこそ、テロワールの違いがダイレクトに比較できて面白いんです。僕たちの目標は、フランスやオーストラリアの有名産地を再現することではありません。『酸がきれいで、香りが繊細で、余韻に透明感がある——これは津軽だから生まれた味だね』と言ってもらえるワインに、時間をかけて育てていきたいと思っています。
4. LIGHT FACTORY とのコラボレーションと食卓への提案
今回、僕たち LIGHT FACTORY とのオリジナルワイン企画やコラボレーションをご一緒させていただくにあたり、藤井さんが特に意識されたことや想いをお聞きしたいです。
LIGHT FACTORYは、単に商品としてのワインを右から左へ売るのではなく、その背景にある造り手の想いや土地のストーリーまで含めてお客様に届けてくれる場所だと思っています。ワインって、ボトルの中身だけでは伝わらないことがたくさんありますから。
今回のコラボで一番意識したのは、『LIGHT FACTORYで実際にお客さんが飲んでいる場面』です。ワイン単体で完結させるのではなく、お店の料理や空間、会話の中に自然に溶け込むバランスを考えました。果実味はしっかりありつつ重すぎず、グラスんでもう一杯飲みたくなる味わいです。飲んだ方が『津軽ってどんなところだろう?』と興味を持ってくれたら、これ以上の喜びはありません。
ありがとうございます!お店でお客様にそのストーリーを伝えるのがますます楽しみになりました。実際のペアリングとしては、どんな料理と合わせるのがおすすめですか?
スパークリング(スチューベン由来)は、生ハムやチーズ、ホタテや白身魚はもちろん、少し塩味や油分のある唐揚げなど、普段の家庭料理とも抜群に合います。泡と酸が口の中をリフレッシュしてくれますから。
赤(スチューベン)は重すぎないスタイルなので、鶏肉や豚肉のロースト、焼き鳥、そして醤油や味噌といった日本の調味料と相性が良いです。青森らしく、りんごを使ったソースを合わせた豚肉料理なども面白いですね。『特別な料理』を用意するのではなく、いつもの食卓で気軽に楽しんでほしいです。
5. 未来への展望と、飲み手へのメッセージ
最後に、Three Farmの今後の展望と、ワインを楽しんでくださるお客様へのメッセージをお願いします!
僕たちが目指すのは、規模を拡大することよりも『津軽でブドウをつくるならスリーファーム』と思ってもらえるような存在になることです。スチューベンの新しい可能性を開拓し、国際品種を通して津軽の風土を表現し、さらにはジュースなども含めてブドウという果物の価値を多角的に発信していきたいと考えています。
ワインって決して難しいものではありません。まずは『美味しい!』と気軽に楽しんでいただくのが一番です。ただ、そのグラスの向こう側には、津軽の深い雪があり、短い夏があり、畑で一年間大切に育てられたブドウがある。ワインを口にした時に、少しだけ青森・津軽の景色を思い浮かべていただけたら、つくり手としてこれほどうれしいことはありません。
津軽の景色や風を感じながら味わう一杯……最高の贅沢ですね。藤井さんの深い情熱とブドウへの誇りを、僕たちもお店やイベントを通じて大切に届けていきます。本日は本当にありがとうございました!
